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書評

Pierre-François Souyri, Moderne sans être occidental. Aux origines du Japon d'aujourd'hui, Paris,Gallimard, 2016.

ピエール=フランソワ・スイリ著『西欧化なしの近代化——現代日本の起源について』パリ、ガリマール社、二〇一六年

Didier Davin ディディエ・ダヴァン

 フランス人は日本の歴史に対して一般にどのようなイメージを抱いているだろうか。当然、人それぞれだが、大多数の見方が根深い先入観に基づいていることは簡単に想像ができる。サムライの時代からいきなり西洋の影響を受けて、凄まじい勢いで近代化し、さらにナショナリズムに走ったといった見方ではないだろうか。こうした基盤の上に未だ消えがたい誤解が生じていると言える。嬉しいことに、この単純ゆえに誤った史観を変えるための貴重な本が昨年出版された。元日仏会館のフランス館長でもあったピエール=フランソワ・スイリ氏著の Moderne sans être occidental. Aux origines du Japon d'aujourd’hui(西欧化なしの近代化——現代日本の起源について)は、幕末から太平洋戦争の勃発までの時代を描いているが、最大の特徴は歴史と思想史の両面を論じていることにあると言える。というよりも、日本人が対面した思想的な挑戦を歴史的に解明し、歴史の動きを思想の変化で解明すると言った方がいいのかもしれない。著者はジュネーヴ大学で日本史の教授として、数多くの研究書を著した。なかでも、日本中世の歴史の深部を紹介した Histoire du Japon médiéval, le monde à l’envers (中世日本の歴史——下剋上の世界)(Paris, Éditions Perrin, coll. « Tempus », 2013)は日本史の学界で広く読まれて、大手新聞の紹介を経て話題になった。

 

そのスイリ氏の最新刊 Moderne sans être occidental は同様に話題の的になり、ラジオや新聞などに取り上げられた。学術的な研究書がメディアに紹介されることはさほど多くはないので、専門の研究者や学生だけではなく、一般の読者に読まれることを大いに期待できる。

 

幕末から二十世紀前半までの比較的短い期間、日本人たちは海外に対して様々な感情を抱いていた。それを理解しない限り、日本の近現代史は永遠に不可思議にしか見えなくなる。しかも、本の副題の通り、そのことは歴史だけではなく、現代の日本を理解するために欠かせない知識である。

 

西洋への憧れ、長年理想化されてきた中国への新しい見方、帝国主義列強に植民地化されるかもしれないという危惧など、日本人の心は大きく揺れ動いた。それを動機に、時代の流れに応じて人々はさまざまな行動を起こした。その行動だけを考察するなら、日本は矛盾に満ちて理不尽な世界に見えるであろう。逆に言えば、その行動の背景にあった動機を理解すれば、日本への理解が大きく変わることが期待できる。本書はその根本的な理解をもたらすものに違いない。